頻繁な始動・停止を繰り返す状況(例:エレベーター、CNC工作機械、自動化生産ライン)では、DCモーターは0から定格速度へ、あるいはその逆の繰り返しの速度変化を経験します。これにより、特定の部品が常に衝撃とエネルギー損失にさらされるため、以下の4つの主要部品に重点的に注意を払う必要があります。 ブラシと整流子、電機子巻線、ベアリング、電磁ブレーキ摩耗のメカニズムと対象となるメンテナンス対策については、以下で詳しく説明します。
1. ブラシと整流子:始動/停止時の摩擦と火花の高衝撃ゾーン
頻繁な始動と停止は、ブラシと整流子の摩耗を加速させます。その主な要因は 2 つあります。まず、始動/停止中に電機子電流が大幅に変動し (始動電流は定格電流の 5~8 倍に達することがあります)、整流子速度が 0 から急激に上昇または下降するため、接触インターフェースで「滑り摩擦衝撃」と「整流火花の激化」が発生します。一方で、摩擦衝撃はブラシの摩耗を加速させます。通常の連続動作では、ブラシの寿命は通常 2,000~3,000 時間ですが、頻繁な始動と停止を繰り返すと、この寿命は 800~1,200 時間に短縮されます。ブラシが元の長さの 1/3 まで摩耗したときに交換しないと、接触面積が減少し、電流密度が増加し、火花が悪化します。一方、始動・停止時の整流起電力の急激な変化により、強い火花が発生しやすく、整流子表面が焼けてピットや酸化皮膜が形成され、接触抵抗が増大し、「摩耗→火花発生→摩耗の悪化」という悪循環に陥ります。
メンテナンスは、次の 3 つの主要なステップに重点を置いています。
- 200~300時間ごとにブラシの摩耗を定期的に点検してください。ブラシは適切なモデルに交換してください(例えば、グラファイトと金属粉末を複合したブラシは、純粋なグラファイトブラシよりも耐摩耗性が30%高いため、頻繁に始動・停止する用途に適しています)。また、ブラシ圧力が15~25 kPaで安定していることを確認してください(圧力が不十分だと火花が発生し、圧力が高すぎると摩耗が促進されます)。
- 500時間ごとに400番の細かいサンドペーパーで整流子の表面を研磨し、酸化物層とピットを除去し、表面粗さ(Ra)が0.8μm以下であることを確認してください。研磨後はアルコールで表面を洗浄してください。
- 始動/停止時の摩擦係数を低減し、火花を最小限に抑えるために、整流子の表面に導電性グリース(例:グラファイトベースのグリース)を薄く塗布します。
2. 電機子巻線:始動・停止電流の影響による絶縁劣化と銅損のリスク
始動時と停止時には、アーマチュア巻線は二重の摩耗の脅威に直面します。
- 始動電流が高いと銅損(Pcu = I²R)が急増します。例えば、定格電流50Aのモータで始動電流が300Aの場合、銅損は定格動作レベルの36倍に増加します。これにより巻線の温度が急上昇し、絶縁の劣化が加速します(例えば、クラスB絶縁の寿命は130℃を超える温度に曝露されると半減します)。
- 回転子の回転に伴い、電機子巻線は繰り返し電磁力の衝撃を受けます。特に巻線の固定端では、振動によって絶縁層が損傷しやすく、巻線間の短絡につながります。
メンテナンスは「電流制御」と「絶縁試験」が中心となります。
- アーマチュア回路にソフトスタータを設置します。アーマチュア電圧を徐々に上昇させることで、始動電流を定格値の1.5~2倍(例:50Aモーターの場合、75~100A)に制限し、高電流による衝撃を回避します。
- 3ヶ月ごとにメガオームメーターを用いてアーマチュア巻線の絶縁抵抗を試験し、0.5 MΩ以上(380 Vモーターの場合)であることを確認してください。絶縁抵抗が低下した場合は、モーターを分解し、ヒートガン(温度80℃以下)で巻線を乾燥させるか、絶縁塗料(例:エポキシ変性絶縁塗料)を再塗布してください。
- アーマチュア巻線端部の結束テープを点検してください。緩んだり破れたりしたテープは、振動による摩耗を防ぐため、耐熱性のある代替品(例:グラスファイバークロステープ)に交換してください。
3. ベアリング:始動/停止時のラジアル力と潤滑不良の隠れたリスク
頻繁な始動と停止はベアリングの安定した潤滑と力のバランスを崩します。
- 始動時には、ローターが静止状態から急加速し、ベアリングの内輪とボールの間に通常の転がり摩擦ではなく「滑り摩擦」が発生します。これによりグリース膜が破壊され、ボールと軌道面の摩耗が加速します。
- モータの起動・停止時には、負荷変動によりモータ軸のラジアル振れが生じやすく、ベアリングにラジアル方向の力が加わります。時間が経つにつれて、ベアリングのクリアランスが増大し(通常の深溝玉軸受のクリアランスは0.1mm以下ですが、頻繁な起動・停止により0.2mmを超える場合があります)、異常な騒音や振動が発生します。
メンテナンスでは「潤滑管理」と「クリアランステスト」を重視します。
- グリースの交換間隔を短縮します。通常運転の場合6ヶ月ですが、頻繁な起動停止が発生する場合は3ヶ月に短縮します。高温・せん断耐性グリース(例:グレード2の複合リチウム系グリース、-20℃~150℃対応)を使用し、ベアリング内部空間の1/2~2/3をグリースで充填します(グリースが多すぎると過熱の原因となり、グリースが少なすぎると乾燥摩擦につながります)。
- 200時間ごとに聴診器でベアリングの異音をモニタリングしてください。「ハム音」や「カチッ」という音が発生した場合は、直ちにモーターを停止してください。隙間ゲージでベアリングのクリアランスを測定し、0.15mmを超える場合はベアリングを交換してください。
- 始動/停止時のラジアル力の影響を軽減するために、取り付け時にモーター シャフトとカップリング間の同軸度の偏差が 0.1 mm 以下であることを確認します。
4. 電磁ブレーキ:頻繁なブレーキ操作によるブレーキパッドとコイルの摩耗
一部のDCモーター(例:エレベーターのトラクションモーター、ホイストモーター)には電磁ブレーキが装備されています。頻繁な始動と停止により、ブレーキは「作動と解除」を繰り返す必要があり、以下の2種類の摩耗が発生します。
- ブレーキパッドの摩耗:ブレーキをかけるたびに、パッドとブレーキドラムの間に摩擦が生じます。頻繁なブレーキ操作はパッドの厚さを急速に減少させます(通常のパッド厚さは5mmですが、頻繁な発進・停止を繰り返すと、1ヶ月あたり0.5~1mmの摩耗が発生する場合があります)。厚さが2mmを下回ると、ブレーキ性能が著しく低下します。
- コイルの摩耗:ブレーキコイルへの頻繁な通電は銅損を増加させます。さらに、噛み合い時の電磁力の衝撃によりコイルの絶縁層が容易に損傷し、短絡につながります。
メンテナンス対象は「ブレーキパッド」と「コイル」です。
- ブレーキパッドの厚さを毎週点検してください。厚さが2mmを下回ったらパッドを交換してください。ブレーキ時の力の不均一を防ぐため、パッドとブレーキドラムの接触面積が90%以上であることを確認してください。
- ブレーキコイルの抵抗を毎月測定してください。定格値からの偏差が5%を超える場合は、コイルを分解して巻線間の短絡がないか確認してください。短絡が検出された場合は、コイルを巻き直すか、ブレーキアセンブリ全体を交換してください。
- ブレーキドラムの表面に高温耐摩耗コーティング(セラミックベースのコーティングなど)を薄く塗布して、パッドとドラムの耐摩耗性を向上させ、パッドの寿命を延ばします。
要約すると、DCモーターの頻繁な始動・停止シナリオでは、ブラシ/整流子、電機子巻線、軸受、電磁ブレーキの「高頻度点検+重点メンテナンス」により、部品の故障率を60%以上低減できます。これにより、長期にわたる安定した運転が確保され、部品の損傷による生産停止や安全事故を回避できます。